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性と生殖

ヒトのフェロモンと嗅覚と性行動の関係

Posted on 2016.6.5


AdobeStock_64491520smallヒトは他の動物のようにフェロモンを介して性行動を誘起できるのでしょうか。

フェロモンは同一種の他の個体に対して生殖や発育に関連する一定の行動を促すための生理活性物質。



 



フェ ロモン=匂い、香り、というイメージが強いのですが、実は匂いはありません。フェロモンを感知する受容体は、鼻腔の「鋤鼻(じょび)器」にあり、そこから 扁桃体や視床下部へと刺激が伝わりホルモン分泌に影響を与えます。東京大学農学部の東原和成教授らの研究では、オスマウスの涙にはESP1というフェロモ ンがあり、その物質をメスマウスの鋤鼻(じょび)器が感知すると、メスのマウスはオスのマウスの交尾を受け入れやすい体勢を取る「交尾受け入れ行動」を誘 発させるそうです。他方、ESP1というフェロモンは、他のオスマウスの攻撃行動を亢進させる働きも持っています(A)。私たち人類の鋤鼻(じょび)器 は、両鼻の仕切り部分のくぼみにありましたが胎児期に退化し、ほとんどの人が消失してしまうことが明らかになっています。まれに鋤鼻(じょび)器が残って いる人もいらっしゃるそうです。



 



では、ヒトはフェロモンを感知することができないのでしょうか? 



 



生 物全体としてみると約300種類のフェロモン受容体が発見されています。前述のとおり、ヒトは胎児期に鋤鼻(じょび)器を失ってしまうため、その代わりに 匂いを感知する鼻腔奥の上部の「嗅上皮」というところにフェロモン受容体があり、現在5つほどのフェロモン受容体が確認されています。さらにまだ機能して いないフェロモン受容体遺伝子が多数発見されており、どのように働いているのかは解明されていません。



 



嗅 上皮で感知されたフェロモンの刺激は、大脳辺縁系に伝わります。最近の研究では、嗅上皮にあるフェロモン受容体の働きにも注目が集まっています。たとえ ば、ゼブラフィッシュという熱帯魚のメスが放出する排卵・産卵を促進する「プロスタグランジン」という物質が、オスの嗅覚受容体を刺激して嗅覚の神経回路 が活性し、求愛行動を誘起させるという性ホルモンとしての働きについても、理化学研究所による研究で報告されています(B)。



 



さ て、俗な話、つまり本題に入りましょう。好きな人に振り向いてもらい、恋愛を成就させるために香りは役に立つのでしょうか?今までの研究成果をまとめてみ ると、フェロモンを感知する能力を失った人類は、匂いの情報を介してフェロモン受容体が活性化させることで脳を刺激し、性行動を誘起できるのではないかと 推察できそうです。



 



香 水は甘い香りで人を魅了する「魔法の媚薬」としても、古くから珍重されてきましたが、多くの香水に用いられているジャスミンの香りには、他の生花や香水の 原料以上に、ヒトの嗅上皮にあるフェロモン受容体を活性させて、大脳辺縁系及び視床下部の活性を高めるという性行動の制御にかかわる刺激を持つことがドイ ツ・ボーフムのルール大学の研究でわかりました。特に男性よりも女性の方が、ジャスミンの刺激に敏感に反応するそうです(C)。



 



こ の研究室ではさらに、ジャスミンの香りの刺激によってヒトのフェロモン受容体が活性化した時の生理的・心理的な影響についても研究を進めているとのこと。 フェロモンを感知できなくなった人類が、どのようにして匂いの刺激で生殖や発育に関する意思決定や行動を制御しているのかについての研究が進みそうで楽し みです。



 



ジャスミンは、ラテン語でjasminum(ヤスミヌム)、その語源はペルシャ語のヤースミン、意味は「神様からの贈り物」だそうです。



 



ちょ うど今の季節、5~6月に公園を散歩してジャスミンの甘い香りに気がつくと、途端に考え事が頭から消えて、深呼吸していますね。ジャスミンの香りを鼻の奥 まで届けようとしているのか、いないのか…定かではありませんが…。今後も「神様からの贈り物」を素直に享受することにします。




 



(A)Hattori, T., Osakada, T., Matsumoto, A., Matsuo, N., Haga-Yamanaka, S., Nishida, T., Mori, Y., Mogi, K., Touhara, K.* and Kikusui, T.*



"Self-exposure to the male pheromone ESP1 enhances male aggressiveness in mice" Current Biology in press (2016)



 



(B)Yoichi Yabuki, Tetsuya Koide, Nobuhiko Miyasaka, Noriko Wakisaka, Miwa Masuda, Masamichi Ohkura, Junichi Nakai, Kyoshiro Tsuge, Soken Tsuchiya, Yukihiko Sugimoto, Yoshihiro Yoshihara, "Olfactory receptor for prostaglandin F2α mediates male fish courtship behavior", Nature Neuroscience, doi: 10.1038/nn.4314



 



(C)Wallrabenstein I, Gerber J, Rasche S, Croy I, Kurtenbach S, Hummel T, Hatt H. The smelling of Hedione results in sex-differentiated human brain activity. NeuroImage, 2015

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Profile

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健美塾リーダー
宇山 恵子(うやま けいこ)

京都府立医科大学特任教授、東京医科歯科大学非常勤講師。大学卒業後、新聞社、広告会社で医療・美容・ダイエットなどの取材を担当。英語とフランス語を生かし、海外アンチエイジング情報の翻訳、取材も行う。現在は医療・美容ジャーナリスト、ヨガインストラクター、書道講師、メノポーズカウンセラーの視点からもアンチエイジング情報を発信中。