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【メディカル】木を見て森を見ず!人は加齢によって全体像を知覚する能力が衰える

老化

Posted on 2011.7.29

「木を見て森を見ず」とは細部にとらわれて全体像を把握できてないことの例えですが、ドイツ・ユーリヒ(Juelich)市 Institute of Neurosciences and Medicine , Research Centre JuelichのMarkus Staudinger博士らがCortex 2011年7-8月号に発表した研究で、中高年者は青年よりも視知覚で認識された細部に捕らわれやすく、全体 像を把握する能力が衰えていることがわかりました。
博士らはそれぞれ20人ずつの青年(平均年齢22歳)と中高年(平均年齢57歳)を対象 に視知覚認識能力の実験を行いました。実験で使用された視覚刺激は、小さなアルファベットの同じ文字をたくさん使用して別の大きなアルファベットが構成さ れるようになっている図文字(Navon図形と呼ばれ視知覚・認知能力の全体・部分の弁別などの実験刺激としてしばしば使用される図文字で、例えば小さな Eをたくさん並べて大きなFに見えるように配置してある)でした。
今回の実験では、被験者はこの小さな、例えばEだとすると、小さなEが5段階で数を増しながら配列が大きなFに至るような画面を見て、何が見えるか答えさせられました。
ki実験の結果、青年では小さなEの数が増えるにつれて、大きな全体像としてのFを認識・識別できる率が高まって行きましたが、中高年被験者ではこうした識別率の増加は見られず、全体像がFであることが、なかなか認知できませんでした。
こ うした小さな文字の配列で大きな全体像が認識される現象は、ゲシュタルト心理学と呼ばれる心理学の分野においては「良い連続」と呼ばれ、人間の視覚認知の 傾向性として知られているもののバリエーションですが、博士らは今回に実験から、加齢と共に人間の視知覚注意力には変化が生じ、細部に捕らわれて「良い連続」のような全体的な構造を把握する視知覚能力が衰えていくこと、そしてこれは大きな図を把握するための、脳の情報処理速度が、加齢によって遅くなるため に生じていることを示唆しているのではないかとしています。