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イヌイットが魚油で健康になれるのは遺伝子変異と環境適応によるもの?!

Posted on 2015.9.21

phm04_0661-sグリーンランドの原住民イヌイット(エスキモー)は、アザラシやクジラなどの脂肪の多い海洋哺乳類を主食としているにもかかわらず、魚油に含まれるオメガ3不飽和脂肪酸の摂取が多いことから、心臓病のリスクが低いことで有名です。
この例を引き合いに出して、我々もイヌイットにならってオメガ3不飽和脂肪酸を多く摂取すべきと推奨する説が多く発表されています。
しかし、米国カリフォルニア大学バークレー校の研究によると、オメガ3による心血管病リスク低下の効果は、2万年以上前の氷河期(アイスエイジ)と同じような生活を続けてきたイヌイットが獲得した、そうした偏った食生活からの悪影響を打ち消すための特別な遺伝子変異によって、他の地域に住む民族とは異なる脂質代謝のメカニズムを獲得したことによる効能が大きいことが明らかになりました。
さらにこの脂質代謝に関する遺伝子変異は、イヌイットには100%出現している反面、欧米人には2%、中国人(漢民族)には15%しか見られませんでした。そのため、イヌイットと同じ脂質代謝に関わる遺伝子変異を持ち合わせない民族が、イヌイットの食生活にならって、オメガ3不飽和脂肪酸を多く摂取しても、それほどの健康効果を得ることはできない可能性があると指摘し、2015年9月の『Science』で発表しました。
Matteo Fumagalli, Ida Moltke, Niels Grarup, Fernando Racimo, Peter Bjerregaard, Marit E. Jørgensen, Thorfinn S. Korneliussen, Pascale Gerbault, Line Skotte, Allan Linneberg, Cramer Christensen, Ivan Brandslund, Torben Jørgensen, Emilia Huerta-Sánchez, Erik B. Schmidt, Oluf Pedersen, Torben Hansen, Anders Albrechtsen, and Rasmus Nielsen. Greenlandic Inuit show genetic signatures of diet and climate adaptation. Science, 18 September 2015