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太っていても健康な人がいる、でもやっぱりやせるべき!? 国民総腹八分目の是非

肥満

Posted on 2012.11.16

【参考グラフ】日本は痩せすぎ女性が世界的に見ても多い!


アンチエイジングブームの中、一日1 食健康法、週末断食、 カロリー制限など、腹八分目を通り越し、七分目、六分目と、 どんどん低カロリー志向が進んでいる。 果たして本当に低カロリーが健康長寿に結びつくのだろうか?
カロリー制限、飼育サルまでは成功か!?
カロリー制限は、実験レベルでは線虫からサルにいたるまでの動物たちの平均寿命を延長し、それによって活性化するホルモン、シグナル、分子が次々に発見され、老化や病気の予防に役立っていることが、数多く報告されている。
特にカロリー制限のアンチエイジング効果が注目を浴びたきっかけになったのが、米ウィスコンシン大学の研究。
サルを20年間飼育し、片方には十分なエサを、片方には通常の7割のエサを与えた結果を写真付きで発表し、
「十分なエサを食べたサルは、毛が抜けて腰も曲がり、老化しているのに対し、腹七分目のサルは毛並みもふさふさで、肌も若々しい状態だった」という。
ヒトとサルは同じ結果とは限らない
これについて北里大学名誉教授の塩谷信幸先生は
「そもそもサルの結果がそのままヒトに当てはまるとは考えにくいし、十分にエサを与えられるという状態こそが、自然界のサルにとってはあり得ない、異常な状況です」と分析する。
日本人は、欧米人に比べて、かなりカロリー制限した食生活を送っている。さらにヒトはサルやほかの動物のように、エサがあればいつでも必ず腹いっぱい食べるとは限らない。
一方、腹七分目のサルは、気性が荒く、常にイライラした状態だったという報告もある。カロリー制限の状態が、精神面にも健康をもたらすかどうかには疑問が残る。

日本の若い女性はやせすぎている!
40~59歳の男女4万人を対象にアンケート・追跡調査した厚生労働省多目的コホート研究の結果によると、
BMIが19未満のやせ型の死亡率は約2倍(死亡率が最も低いBMIが23.0 ~ 24.9 の人を基準にした場合)も高かった。
豊かな食文化を誇り、グルメ大国でもある日本。
それなのに日本人女性の5人に1人がBMI18. 5未満のやせすぎという状態。
先進国の中でも突出してやせすぎ女性が多い。
とくに、25~29歳では、1976~1980年ではやせすぎ女性が13. 5%だったのに対し、1996~2000年には23. 7%に急増している。
若い女性のやせすぎ傾向は、将来的に貧血、骨粗しょう症のリスクを高め、月経不順や不妊になることも考えられ、切迫早流産、低出生体重児分娩のリスクが高まると言われている。
日本は経済的に恵まれているにもかかわらず、GDPの低い国と同じくらい痩せた女性の比率が多い。やせ願望が強いのだろうが、低栄養などの問題が気がかりだ。
健康な肥満は無視されるダイエット志向という「歪み」
「腹八分目に医者いらず」と古くから言われ、断食によるデトックス効果や免疫賦活効果があることも知られており、
科学的にもカロリー制限は体に数多くの恩恵をもたらすことが証明されている。
ただ最近の傾向は、過食と肥満を諸悪の根源と極端に嫌う。
ちょっと待ってほしい!
太っている人の中にも検査数値に問題がなく健康な人はいるし、やせていても高血圧で血糖値が高い人もいる。
それなのになぜここまでカロリー制限志向に走るのか?
このままでは腹八分目が、七分目、六分目……と、どんどんエスカレートして、逆に低栄養にならないかと心配になる。
HBRでも7月号 で「現代型栄養失調 」について紹介し、警鐘を鳴らしている。
骨折、寝たきりは健康長寿の敵!
東京都健康長寿医療センター研究所部長で、『50歳を過ぎたら「粗食」はやめなさい!』の著者でもある新開省二先生は、
「健康長寿のためには、いくつになっても『自分で歩けること』が大切です。そのためには、骨や関節の健康を維持することが重要。高齢者はやせているとロコモティブシンドローム(ロコモ)のリスクが高まる傾向があります。
行きすぎたカロリー制限で、食事からとる栄養が不足することで、筋肉や骨が弱くなってしまうと転倒や骨折のリスクが高まり、それによって、寝たきりの状態になるリスクも高まります」と説明する。
血清アルブミンとヘモグロビンに注目しよう

新開先生によると、栄養状態を評価する指標として、血液中で栄養を運ぶ役割を担う「血清アルブミン」と、血液中で酸素を運ぶ働きを担う「ヘモグロビン」の濃度があるという。
「体型別に血清アルブミン値とヘモグロビン値を比較すると、BMIが小さくやせている人ほど、どちらの値も小さい傾向があります」と解説する。やせすぎ女性の貧血リスクが高いのも、酸素を運ぶヘモグロビン値が低いことと関係しているのだ。

栄養・体力・社会参加が長寿の秘訣

「豊かな老後を送るのに必要なのは、栄養・体力・社会参加です」と新開先生は言う。
これを裏付けるデータとして、健康で長寿な人の特徴として、次の3つがあると新開先生は言う。
❶コレステロール値、血清アルブミン値が高く、栄養状態がいい。
❷筋力があり、歩行速度が速い。握力が強い。
❸仕事や社会活動を行っている。
「閉じこもり」にならないためにも食べる
新開先生は、外出頻度が週1回以下に減少した高齢者を「閉じこもり」と定義し、さまざまな調査を実施。
その結果、65歳以上の10人に1人が「閉じこもり」傾向にあり、「閉じこもり状態」でいること自体が、
心身機能の低下をもたらして、要介護状態や寝たきり状態を引き起こすリスクを高めることも明らかになった。
外出して、人と社会とのつながりを持ち続けることが、何よりの健康法なのだ。
自立という言葉が示すように、いつまでも自分の足で立ち、歩き、行きたいところに行けるような体力を保つことが、豊かな老後には大切だ。