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ウイルス感染と高血圧の関係

病気

Posted on 2009.5.24

 

 
ボストンのベス・イスラエル慈善病院のクライド・クラムパッカー博士らは、ウイルスに感染することで、高血圧やアテローム性動脈硬化症(動脈の内側に脂肪が沈着して、血管が固く分厚くなり、血液の通り道が狭くなったり、血栓ができやすくなる状態)などのリスクを高めるかもしれないことを動物実験レベルで発見し、5月15日号の『PLoS Pathogens』に発表しました。

博士らは、48匹のマウスを4グループに分け、通常食のグループと高カロリー食のグループに分け、それぞれにウイルス感染させたグループ、させないグループで比較しました。

その結果、サイトメガウイルス(ヘルペスウイルスの一種)に感染すると、数週間で動脈の血圧(拡張期・収縮期ともに)が上昇することがわかりました。

さらに、高カロリー食でウイルス感染したグループは、通常食のグループよりも、血圧の上昇が大きいことも判明し、食事のカロリーに関係なく、ウイルス感染によって血圧は上昇するものの、高カロリー食が、さらに高血圧に拍車をかけてしまうこともわかりました。

疫学調査では、外科手術後の血管の狭窄とサイトメガウイルスとの関係が指摘されていましたが、そのメカニズムについては明らかになっていません。

実験したマウスの血液を調べると、インターロイキン6、単球走化性タンパク質1、TNFα3つの炎症性サイトカインが増えていることがわかりました。

ウイルス感染が引き起こした、これらの炎症性サイトカインの増加が、血管内皮細胞の炎症を引き起こし、それが血圧上昇につながっていると博士らは分析します。

またツメの実験でサルの腎臓の細胞にウイルスを感染させると、レニン・アンジオテンシンシステムを活性させて、高血圧を引き起こすことがわかりました。

博士らは、ヒトの高血圧も、レニン(腎臓内で作られるタンパク質の分解酵素で、活性が強いと高血圧を引き起こす)・アンジオテンシン(レニンが活性することで血圧を上昇させるスイッチとして働く)の活性が強いことで生じるので、血管内皮の細胞が感染を起こすことで、炎症性サイトカイン物質を増やし、それが引き金となって、血圧を上昇させる要因であるレニン・アンジオテンシンの活性を強めると考えられることを示唆しています。

Primary source: PLoS Pathogens
Source reference:
Cheng J, et al "Cytomegalovirus Infection Causes an Increase of Arterial Blood Pressure" PLoS Pathog 2009; DOI: 10.1371/journal.ppat.1000427.