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皮膚細胞スプレーが慢性的な皮膚の傷(慢性静脈性下肢潰瘍)を早く治す

病気美容

Posted on 2012.8.21



さまざまな臓器や組織の再生医療に注目が集まっていますが、新生児のケラチ ノサイトと線維芽細胞などの皮膚細胞を含んだスプレー(HP802-247)を、慢性静脈性下肢潰瘍の患者の患部にスプレーすることで、通常の治療よりも 早く症状が改善されることが、マイアミ大学Robert S. Kirsner博士らの研究によって明らかになり、2012年8月のオンライン版「Lancet」で報告されました。

慢性静脈性潰瘍は静脈 が逆流することが原因で起こり、静脈が適切に機能せずに血液が逆流し、静脈が引き延ばされてしまいます。こうした静脈の周囲の組織には新鮮な血液が十分に 行き渡らないために、酸素や白血球が不足して組織には毒素が留まり、感染や炎症を起こしやすくなります。症状が進むと、その部位に潰瘍が生じ、皮膚表面が 剥がれ落ちて大きな傷になってしまうこともあります。アメリカでは65歳以上の人の1.5~2%に慢性静脈性下肢潰瘍があるといわれます。

研 究者らは、慢性静脈性下肢潰瘍の患者228人を対象に、濃度の違う皮膚細胞スプレー(0.5×106 cell per ml /5.0×106 cell per ml)を7日間おき、14日間おきに噴霧するグループと、薬効のないプラセボのスプレーを噴霧するグループを比較。その結果、12週間で完治した患者の数 は、プラセボグループで46%だったのに対して、14日間おきに0.5×106 cell per mlを投与したグループの完治率は70%でした。

皮膚細胞スプレーは、新生児の割礼後の廃棄処分となる包皮から採取したケラチノサイトや線維芽細胞を、異常な増殖を起こさないように処理してつくります。
研究者らは、皮膚細胞スプレーの下肢潰瘍に対する治癒効果を認めながら、スプレーの値段が高いことも指摘。細胞組織工学の研究が進み、皮膚細胞スプレーが手頃な価格で供給できるような技術が開発されることに期待を寄せています。

Lancet 2012; DOI: 10.1016/S0140-6736(12)61255-0.