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腸内細菌の代謝物質が動脈硬化を悪化し心臓病を引き起こす

病気老化食

Posted on 2020.7.5

米国コロラド大学の研究によると、赤味肉、卵などの動物性タンパク質を食べると腸の中で生成される トリメチルアミン-N-オキシド (TMAO)という代謝物が、血管の老化を加速することがわかり、2020年7月1日の『Hypertension』で発表されました。
以前から、腸内微生物(腸内細菌)の代謝産物の一つであるトリメチルアミンN-オキシド(TMAO)が冠状動脈性心疾患(CHD: 心臓に血液を供給する冠動脈で血液の流れが悪くなり、心臓に障害が起こる病気の総称 )を引き起こす原因物質であることは、様々な研究で指摘されてきました。例えば、米国 テュレーン大学が760名の健康な女性を対象として、血漿TMAOレベルとCHD発生率との関連を検討する前向コホート研究を行った結果、約10年間の観察期間中で、 TMAOレベルが最も高いグループは、 TMAOが最も低いグループに比べて、約1.8倍も冠状動脈性心疾患(CHD)を発症するリスクが高いことが明らかになりました。
私たちが動物性タンパク質を食べると、腸内に常在する腸内細菌がすぐに働き、それを分解します。腸内細菌はアミノ酸のL-カルニチンとコリンを代謝するときにトリメチルアミンと呼ばれる代謝産物を作り出し、肝臓はそれをトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)に変換し、血液中に混ざって全身の血管内に運ばれます。
今回発表されたコロラド大学の研究は、101名の高齢者と22名の若年成人の血液と動脈の健康状態を測定し、TMAOレベルが年齢とともに著しく上昇することを発見しました。この結果は、腸内細菌の種類が年齢とともに変化し、TMAOの産生を増やす腸内細菌が多くなることを示唆しています。
さらにTMAOの血中濃度が高い成人は、動脈機能が著しく悪化しており、血管内に酸化ストレスによるダメージ、つまり血管内部の組織損傷がより多く見られました。
また研究者が若いマウスのエサにTMAOを多く混ぜたところ、マウスの血管が急速に老化しました。さらに見た目だけでなく、マウスの見た目が12か月齢のマウス(人間の約35歳に相当)が数か月間TMAOの多い食事を食べた後に、27か月齢のマウス(人間の約80歳に相当)のように見えたということです。それだけでなく、TMAOのレベルが高いマウスは学習能力と記憶力の低下を示し、 TMAO が加齢に伴う認知機能低下を引き起こす可能性があることを示しています。

一方で、ジメチルブタノールと呼ばれる化合物(オリーブオイル、酢、赤ワインに微量含まれる物質)を食べた高齢のマウスは、血管機能障害が改善しました。

これらの研究結果から、より多くの赤味肉などの動物性タンパク質を食べること、さらに加齢によっても、腸内細菌がより多くの TMAOを作り出し、それが動脈に酸化ストレスを与えて動脈を損傷して動脈硬化を悪化させて、心臓発作などの重大な心臓病のリスクが高まることを指摘しています。 研究者らは加齢に伴う血管の損傷を防ぐためにTMAOの産生をブロックする可能性のある化合物を探す研究を続けると述べています。
【出典】
Trimethylamine-N-Oxide Promotes Age-Related Vascular Oxidative Stress and Endothelial Dysfunction in Mice and Healthy Humans. Hypertension, 2020; 76 (1): 101 DOI: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.14759