コラムColumn

筋肉は免疫力を高める

病気老化運動

Posted on 2020.10.7

感染症やがんになると筋肉量の減少とともに免疫細胞が大幅に低下することが確認され、これによって免疫力も低下し、がんや感染症が悪化してしまうことが明らかになっています。このことからも以前から、筋肉は免疫力を高めると言われていますが、その明確なメカニズムについて、ドイツがん研究センターが、2020年6月の『Scientific Report』で発表しました。

マウスを用いたこの研究によると、がんや感染症などで全身に炎症が広がった際には、比較的に炎症が起こりにくい骨格筋(筋肉を構成する細胞で体を支えたり動かしたりする役割を担う)内の微小環境の中で「CD8+(陽性)T細胞」というさまざまなT細胞に分化する前の増殖力の高いT細胞の発現が確認され、骨格筋とリンパ器官の間に新たなT細胞を産生するパスウェイを確保することが明らかになりました。

さらに筋肉内で産生されたT細胞のうちで、 「CD8 +(陽性) CD103 +(陽性)筋肉浸潤リンパ球(MIL)」という増殖力の高いT細胞が、リンパ器官内に移動し、リンパ器官内にウイルスを攻撃するためのT細胞を補充する役割を担っている可能性が高いことも明らかになりました

また慢性髄膜炎に感染したマウスの骨格筋が「インターロイキン(IL)-15( NK細胞、NKT細胞、gammadeltaT細胞、およびCD8+T細胞を含む免疫系の多くの細胞の発生、成熟および機能維持に重要なサイトカイン )」の産生を増加させたことも明らかになりました。先に説明したMILを維持するためには、筋肉由来のIL-15が必要であることも判明しました。まだ仮説の段階ではあるものの、「エリスロフェロン」と「イリシン」という筋肉から産生される2つの「マイオカイン」が、感染時にT細胞の産生を促進している可能性が今回の研究で指摘されました。「エリスロフェロン」は鉄の代謝機能を調節すること、「イリシン」は脂肪細胞をエネルギー代謝能力の高い褐色脂肪細胞に変える働きがあることで知られています。

このように、筋肉量を維持・増加すると、筋肉から作り出される免疫細胞の数が増えて、体内に侵入したウイルス、細菌、がんなどを攻撃・排除する免疫機能が高まるというメカニズムが明らかになりました。

【出典】 Science Advances  12 Jun 2020:Vol. 6, no. 24, eaba3458 DOI: 10.1126/sciadv.aba3458 https://advances.sciencemag.org/content/6/24/eaba3458