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運動で若返るメカニズムにMOTS-cが関与

病気老化運動

Posted on 2021.2.4

米国南カリフォルニア大学の研究によると、運動中に分泌するMOTS-c(モッツシー)というホルモンが、老化した細胞を若返らせることが明らかになり、2021年1月20日発行の『Nature Communications』に研究成果が掲載されました。以前から運動には若返り効果があると言われてきましたが、今回の研究で、運動が若返りに効果を発揮するメカニズムとしてMOTS-cが関係していることが明らかになりました。

MOTS-cは、細胞のミトコンドリア内でのエネルギー代謝を調節するタンパク質として知られています。肥満したマウスにMOTS-cを注射すると、エネルギー代謝が改善して肥満の進行を抑制することが明らかになっています。具体的には高脂肪食を与えられた肥満のマウスにMOTS-cを投与すると、投与後に代謝が改善し、未投与のマウスよりも体重増加が少ないことがわかりました。マウスにおけるMOTS-c治療の研究は、食事誘発性肥満と、食事および年齢依存性インスリン抵抗性を逆転させることも発見しました。さらに、寿命が近づいている老化したマウスにMOTS-c治療をすると、握力、歩行(歩幅で測定)、および歩行テストで評価された身体能力を改善しました。研究者は、「高齢マウスは人間でいうと65歳以上と同等であり、MOTS-cを一度投与するだけで、トレッドミルでのランニング能力が2倍になり、中年の未投与のマウスの運動能力を超える改善を示しました」と述べています。

ヒトに対するMOTS-c投与と運動能力の影響を測定するために、研究者らは、エアロバイクで運動した運動習慣のない健康な若い男性ボランティアから骨格筋組織と血漿を収集しました。サンプルは、運動前、運動中、運動後、および4時間の休息後に収集されました。その結果、筋肉細胞では、MOTS-cのレベルは運動後にほぼ12倍に有意に増加し、4時間の休息後も部分的に上昇したままでしたが、血漿中のMOTS-cレベルも運動中および運動後に約50%増加しました。

ヒトでの運動中のMOTS-cの発現とマウスでの研究の結果は、老化がミトコンドリアと核の両方のゲノムの遺伝子によって調節されているという考えを支持しています。 今後もMOTS-cに関するさらなる研究が必要ですが、データは、MOTS-cを用いた治療が健康寿命を増加させ、フレイルなど老化に伴い健康リスクを高める要因を回避することができる可能性があることを示しています。

研究者は、歩幅の減少や歩行能力低下など、人間の身体的衰弱の指標は、死亡率と罹患率に強く関連しており、MOTS-cを用いた治療はこうした老化が進行した段階でも改善効果を見せる可能性があり、今後はヒトへの効果を検証していくということです。

【出典】

Joseph C. Reynolds, Rochelle W. Lai, Jonathan S. T. Woodhead, James H. Joly, Cameron J. Mitchell, David Cameron-Smith, Ryan Lu, Pinchas Cohen, Nicholas A. Graham, Bérénice A. Benayoun, Troy L. Merry, Changhan Lee. MOTS-c is an exercise-induced mitochondrial-encoded regulator of age-dependent physical decline and muscle homeostasis. Nature Communications, 2021; 12 (1) DOI: 10.1038/s41467-020-20790-0