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心の傷も体の傷も痛みに反応する脳の部位は同じ

心理脳

Posted on 2011.4.18




失恋による心の痛手を、心が血をすなどと喩えることがありますが、米国・ミシガン大学の心理学者Ethan Kross博士らが、Proceedings of the National Academy of Sciences 2011年3月28日オンライン版に発表した研究で、社会的な拒絶によって生ずる心の痛みが、身体的な刺激で生じる痛みと同じ脳の部位 を活性化させていることが明らかになりました。

博士らは、過去半年以内に不本意にも恋人との恋愛関係が破局して、ひどく心が傷ついているこ とを示している40人の被験者を対象に実験を行いました。実験で被験者たちは、恋人から別れることを切り出され、自分が拒絶されたときの感情と彼らの身体 的な痛みの感覚の2つが調べられました。

被験者たちはfMRI(機能的磁気共鳴画像)で、脳をスキャンされる状況に置かれながら以下の課題 を行いました。まず拒絶的経験の課題として、①自分を棄てた以前の恋人の写真を見て破局を迎えたときにどのように感じたかについて思いをめぐらすこと、② 友人の写真を見ながらその友人と最近経験した楽しかったことについて考えること、の2つが実施されました。

次に身体的な痛みの課題として、 ①腕に熱刺激を与える器具を取り付け、火傷はしないけれども痛みを感じるちょうど非常に熱いコーヒーカップを持ってしまったときと同様なぐらいの刺激を与 えられたときの反応、②痛みを感じない暖かいと感じるレベルの刺激のときの反応の2つが調べられました。

この合計4つの刺激課題に対して、そのとき彼らの大脳のどの部分が強く反応しているかがfMRIの画像で分析され、さらに身体的な痛みの際に大脳のどの部位が反応しているかについて調べた500以上の先行研究と比較対照されました。

そ の結果、別れたときに感じた社会的拒絶による心の痛みも、身体的な痛みも、同様に大脳の二次体性感覚野(secondary somatosensory cortex)と、背側後島葉(dorsal posterior insula)が、活発に働いていることがわかりました。

博士らはこの結果から、社会的な拒絶による心の痛みも体の痛みと同じ体性感覚であることが明らかであり、心の傷による痛みという表現が単なる比喩的表現ではないことが証明されたとしています。

Proceedings of the National Academy of Sciences 2011年3月28日オンライン版