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精神的苦痛はさまざまな要因から死亡リスクを増加させている!

心理病気

Posted on 2012.8.14



うつ病と自殺リスクやストレスと循環器疾患リスクの関係はよく知られていますが、たとえわずかであったとしても、精神的苦痛や苦悩は、さまざまな原 因をともなって最終的には死亡リスクを増大させている可能性あることが、英国・エディンバラ大学のTom Russ博士らが、BMJ 2012年7月31日オンライン版に発表した研究で、明らかになりました。

博士らは英国で実施された10の大規 模な長期的研究のデータを分析しました。データは調査開始時点で循環器疾患やがんに罹患していない35歳以上の成人(平均年齢60歳)68.222人から 得られた、1994年から2004年に渡る期間のものでした。またこれら調査対象者は、健康状態と同時にGHQ-12という精神健康度を測定する質問紙で 不安、抑うつ、不適応、自信の喪失など精神的な苦痛のレベルが調べられました。

性、年齢、社会階層、BMI値、血圧、身体活動の状況、喫 煙、アルコール消費、糖尿病など死亡リスクに関係する要因の影響を取り除いた上で、精神的苦痛の度合いと死亡リスクのみの関係を抽出し分析した結果、精神 的苦痛が低い水準であっても、循環器疾患を含む全ての原因での死亡リスクが増加していることがわかりました。

ただし、がんによる死亡リスクは、最高水準の精神的苦痛にあるグループのみ影響があり、中低水準のグループでは影響が見られませんでした。

こ の結果について博士らは、病的レベルの人たちが死亡リスクが高まっていることは予測していたが、神経症レベルではない低水準の精神的苦痛レベルにある人た ちは、通常は心療内科や精神科などを受診しないと考えられるが、その程度であっても、死亡リスクが増加していることは、特に注目されるべきだとし、今後は 精神的苦痛を取り除くような治療を受けることが、全体としての死亡リスクの低下に改善効果をもたらすかどうか研究をすすめたいとしています。

医療ジャーナリスト 宇山恵子

BMJ 2012年7月31日オンライン版