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嫌われたとき脳はどうリカバーするか?

心理

Posted on 2013.10.14

「棒や石は骨を傷つけるが、言葉は我々を傷つけない」ということわざが。アメリカにはあるそうです。これは、人にいじめられたり、嘲笑されたりした時に、じっと耐えるためのことわざとして役立っているようです。2013年10月の科学雑誌「Molecular Psychiatry」に掲載されたミシガン大学医学部の研究が、実際に人に嫌われたり、社会的な拒絶を受けたときに、私たちの脳がその痛みをどのように感じて、どのように痛みを緩和させているかについて解析しています。以 前からの研究で、人の「体」が痛みを感じたときに、交感神経の興奮が起こり、その刺激で、GABA神経系から、「オピオイド(脳内麻薬様物質)」の一種で ある、「βエンドルフィン」など分泌され、これによって、強烈な痛みなどのストレスを麻痺させることを突き止めていました。オピオイド鎮痛薬の代表的なものが「モルヒネ」で、手術中や手術後の痛み、外傷による痛み、陣痛、がんによる痛みなどを緩和し、実際の治療にも使用されています。オピオイドは、痛みを緩和するとともに、喜びの感情を高める働きもあることがわかっています。研 究らは、18人の成人男女に、100人以上の写真と架空のプロフィールをパソコン上で見せて、「誰が最も自分の恋愛対象として興味をそそられたか?」と質 問しました。被験者が最も気に入った一人を選んだ直後に、「実は、あなたが選んだ相手は、あなたに全く関心がありません」と告げて、そのときの脳のようす をPET画像で分析しました。分析の結果、脳内では、体が痛みを感じたときと同じような脳の部位(腹側線条体、扁桃核、視床下部正中隆起、中脳水道周囲灰白質)で、オピオイド受容体(痛みを感じると反応する場所)が、強く反応していたそうです。つまり、言葉による拒絶や人から嫌われたという事実を知ったとき、脳は体の痛みを受けたときと同じ反応を示しました。さらに、帯状回前部でオピオイドの分泌が多い人は、より自分が嫌われたことに対する不快感が小さく、社会的適応能力が高いと言えるそうです。また、実験前の被験者への質問を分析したところ、より柔軟性が高い人は、オピオイドの分泌が多いこともわかりました。こ れらの結果から、研究者らは、うつ病や社交不安障害なども、オピオイドの分泌が不足することで、人に嫌われたり、社会的な拒絶を受けたときに、心の痛みを リカバーするに十分なオピオイドが分泌されないため、元気になるまでに時間がかかってしまう一方で、喜びを感じたときにも、オピオイドの分泌が少ないため に、十分な喜びを感じることができずに、心が沈んだままでいるのではないかと分析し、今回の研究結果を、これらの病気の解明や治療薬の開発に役立てたいと しています。
D T Hsu, B J Sanford, K K Meyers, T M Love, K E Hazlett, H Wang, L Ni, S J Walker, B J Mickey, S T Korycinski, R A Koeppe, J K Crocker, S A Langenecker, J-K Zubieta. Response of the μ-opioid system to social rejection and acceptance. Molecular Psychiatry, 2013