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運動中の水分過剰摂取にも要注意!

運動

Posted on 2012.7.31

 


ロンドン五輪が開幕しました。暑い夏の盛りに、スポーツ選手がおいしそうにスポーツドリンクなどを飲む姿を見ると、ついつい真似をして、たくさん飲んでみたくなります。その効果を狙ってか、ドリンクメーカーが数社、スポンサーに名前を連ねています。

し かし運動中の水分の過剰摂取は、水分不足よりもアスリートにとって大きなリスクになるかもしれないことが、南アフリカケープタウン大学のTim Noakes博士らの研究によって明らかになり、2012年7月18日付のオンライン版のBritish Medical Journal(BMJ)に掲載されました。

体温上昇による脱水症状では、通常、水を大量に飲ませて体温を下げようとしますが、実はこのと き水分補給よりももっと重要なのは、脱水症状が引き起こす低血圧、つまり「起立性低血圧」による転倒や昏睡などを起こさないように、頭を低くする姿勢をと ることが大切だということです。

研究者らによると、我々は過去40年の間、「喉の渇きを感じる前に水分補給をする」ということが健康にも運 動のパフォーマンスを高めるのにもいいと信じて来ました。しかしながら、体の水分量のわずかな増加が致命的な結果を招く場合もあると研究者らは言います。 たとえばたった2%の水分量の増加が、全身性浮腫を引き起こし、身体的にも精神的にも回復できないような悪い状況に陥ってしまうことになるそうです。

逆に水分不足で体調を崩し、麻痺や自律的な運動ができなくなる状態に陥るのには、全身の水分を約15%以上失ったときに初めて生じるものだそうで、これは48時間水を飲まずに砂漠を歩き続けた場合に匹敵するそうです。

さらに急速な水分摂取をすると、「低ナトリウム血性脳症」を引き起こし、錯乱、こん睡、発作、呼吸停止、死亡などの事故に結びつくこともあるそうです。通常私たちの体は細胞の中と外のナトリウム濃度によって水分量を一定に保っています。

「低 ナトリウム血性脳症」は、急に水分を大量に補給することによって、細胞の外側のナトリウム濃度が下がり、これに反応して、細胞内に水分を大量にため込もう とします。すると過剰に水分を細胞内に溜め込んだ細胞は、細胞自体が膨張します。ここで危険にさらされるのは脳。

脳の細胞は固い頭蓋骨に包まれており、脳 の細胞が膨張しても頭蓋骨が広がらないために、脳細胞同士が圧迫し合って、最終的には脳細胞を損傷してしまうのです。「低ナトリウム血性脳症」は、急激に 水分を補給した後、激しい頭痛や脳腫脹(浮腫)、こん睡などを起こして死に至ることもあります。

実際に2007年にアメリカで、「水飲みコンテスト」を行い、これに参加した28歳の女性が死亡しています。またマラソンランナーやスポーツ愛好家の中にも、水分補給をしっかり行っていたにもかかわらず、スポーツ後に死亡したケースがいくつかあります。

研究者は、水分を積極的に摂取することが、スポーツ時の体のパフォーマンスを無条件に上昇するという考え方を見直して、水分を過剰に摂取すると低ナトリウム血性脳症などのリスクも高まることを視野に入れながら、水分補給を行うべきだとしています。

医療ジャーナリスト 宇山恵子

BMJ, Julu 18, 2012 Cohen D "The truth about sports drinks" BMJ 2012 345: e4737.