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100歳長寿のカギは炎症を抑えること

phm14_0001-sイギリスのニューカッソル大学と慶応大学の共同研究によると、100歳長寿の人々とその子孫は、「寿命の切符」と呼ばれ、寿命を決定づけるテロメアが長いだけでなく、慢性炎症のマーカーが低いことが明らかになり、100歳長寿の重要なポイントは、慢性的な炎症を起こさないことだということが、2015年7月のEBioMedicineで発表されました。

これは日本に在住の684人の100歳長寿の男女、167組の100歳長寿とその子孫や配偶者、539人の85歳~99歳の高齢者など1554人の血液細胞の数、肝臓・腎臓の機能、炎症マーカー、テロメアの長さ、代謝量などを測定し、そのデータを分析した結果によるもので、100歳長寿とその子孫は、一般的な人よりもテロメアが長いことも明らかになりましたが、慢性炎症のマーカーの数値が低いことが明らかになり、長生きするためには、慢性炎症を起こさないように心掛けることが大切だということがわかりました。

“Inflammation, but not telomere length, predicts successful ageing at extreme old age: a longitudinal study of semi-supercentenarians.” EBioMedicine.

 

生後18か月までに感染症を頻発するとセリアック病発症リスクが30%も高まる

unnamedセリアック病は、小麦、大麦、ライ 麦に含まれるタンパク質の「グルテン」に免疫反応を起こし、酵素分解できずに残ったグルテンが小腸の上皮細胞を攻撃して炎症を起こし、この状態が悪化する と小腸の上皮細胞から栄養を吸収できなくなってしまう病気で、1980年以降に患者が急増し、欧米では人口の1%程度の患者がいると言われています。

ノ ルウェー公衆衛生研究所の研究結果によると、生後18か月の間に、10回以上の感染症を起こした子どもは、5回未満の感染症しか発症しなかった子どもに比 べて、30%もセリアック病を発症するリスクが高いことが明らかになり、2015年9月の『The American Journal of Gastroenterology』に発表されました。

この研究は、2000年~2009年の間にノルウェーで生まれた72,921人を 対象に調査した結果によるもの。調査期間に被験者のうち581人の子どもがセリアック病を発症し(およそ0.8%)、生後0~6か月で感染症を発症すると セリアック病になるリスクが高まること、さらに生後18か月までの間に、10回以上の感染症にかかると30%もセリアック病を発症するリスクが高まること がわかりました。胃腸感染症よりも、呼吸器系の感染症を繰り返す方が、発症リスクが高まっていたそうです。

以前から、セリアック病の発症 には、グルテンの過剰摂取が関係しているのではないかと推察されていましたが、それだけでなく、感染症を乳幼児期に繰り返すうちに、免疫システムに悪影響 が出て変質し、それでグルテンに免疫系が過剰に反応して、小腸に炎症を引き起こすために、セリアック病の発症リスクを高めているのではないかと分析してい ます。

Karl Mårild, Christian R Kahrs, German Tapia, Lars C Stene, Ketil Størdal. Infections and Risk of Celiac Disease in Childhood: A Prospective Nationwide Cohort Study. The American Journal of Gastroenterology, 2015

イヌイットが魚油で健康になれるのは遺伝子変異と環境適応によるもの?!

phm04_0661-sグリーンランドの原住民イヌイット(エスキモー)は、アザラシやクジラなどの脂肪の多い海洋哺乳類を主食としているにもかかわらず、魚油に含まれるオメガ3不飽和脂肪酸の摂取が多いことから、心臓病のリスクが低いことで有名です。

この例を引き合いに出して、我々もイヌイットにならってオメガ3不飽和脂肪酸を多く摂取すべきと推奨する説が多く発表されています。

しかし、米国カリフォルニア大学バークレー校の研究によると、オメガ3による心血管病リスク低下の効果は、2万年以上前の氷河期(アイスエイジ)と同じような生活を続けてきたイヌイットが獲得した、そうした偏った食生活からの悪影響を打ち消すための特別な遺伝子変異によって、他の地域に住む民族とは異なる脂質代謝のメカニズムを獲得したことによる効能が大きいことが明らかになりました。

さらにこの脂質代謝に関する遺伝子変異は、イヌイットには100%出現している反面、欧米人には2%、中国人(漢民族)には15%しか見られませんでした。そのため、イヌイットと同じ脂質代謝に関わる遺伝子変異を持ち合わせない民族が、イヌイットの食生活にならって、オメガ3不飽和脂肪酸を多く摂取しても、それほどの健康効果を得ることはできない可能性があると指摘し、2015年9月の『Science』で発表しました。

Matteo Fumagalli, Ida Moltke, Niels Grarup, Fernando Racimo, Peter Bjerregaard, Marit E. Jørgensen, Thorfinn S. Korneliussen, Pascale Gerbault, Line Skotte, Allan Linneberg, Cramer Christensen, Ivan Brandslund, Torben Jørgensen, Emilia Huerta-Sánchez, Erik B. Schmidt, Oluf Pedersen, Torben Hansen, Anders Albrechtsen, and Rasmus Nielsen. Greenlandic Inuit show genetic signatures of diet and climate adaptation. Science, 18 September 2015

 

宇山恵子著『細胞美人 究極の美を手に入れる』(幻冬舎)発売中

宇山恵子著『細胞美人 究極の美を手に入れる』(幻冬舎:1296円)が発売中。

細胞から若さを取り戻す
究極の美肌はどうすれば手に入るのか――

肌老化のメカニズムから、肌を若々しく保つ方法まで、わかりやすく解説しました。

テロメア、遺伝子、ミトコンドリア、抗酸化…なにそれ?という方、ぜひ読んでください。

『細胞美人 究極の美を手に入れる』(幻冬舎:1296円)

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詐欺や不正行為をさせる2つのホルモン

phm11_0256-s日本では「振り込め詐欺」などの特殊詐欺の被害総額が、2014年1年間で559億円にのぼり、過去最悪の被害総額になりました。

アメリカでも年間の詐欺被害額は 3.7兆ドルという莫大な金額。

なぜこのように詐欺事件が永続的に発生するかのついて、内分泌学的なアプローチで研究されたことがありませんでした。

そこ でテキサス大学とハーバード大学が、人が詐欺のような非倫理的な不正行為を行う背景には、ホルモン分泌が関係しているのではないかという仮説を立 て、研究を進めました。特にこの研究では、性ホルモンのテストステロンと、ストレスホルモンのコルチゾールが関係している可能性があることをつきとめ、2015年7月号の科 学雑誌『Journal of Experimental Psychology』にその結果を発表しました。

研究では、被験者117人に数学のテストを受けてもらい、その点数について自己申告して、できた点数によって 報奨金がもらえるようにしました。被験者からは、数学テストを受ける前後に唾液のサンプルを採取しました。その結果、試験前後でテストステロンとコルチゾー ルの数値が上昇した人が、「実際に正解した数よりも多く正解できた」と過大申告して、報奨金をたくさんもらっていたことが明らかになりました。

さ らに詳しく結果を分析した結果について研究者は、テストステロンが人をだましたり非倫理的な行動をとることへの「罪悪感や恐怖心を低下」させ、コルチゾールは ストレスを受けたときに増加するホルモンなので、不快なストレスを取り除くために、試験中にカンニングをしたり、不正な報告をしてお金をたくさんもらうことで、ストレスから回避 されようと企てることを正当化させ、この2つのホルモン分泌の増加が、人を不正行為に走らせる内分泌的な要因になっているのではないかと分析します。さらにその証拠として、不正な報告をして報奨金をもらった人は、その後のコルチ ゾールのレベルが低下して、ストレスから解放された状態になっていたそうです。

Hormones and Ethics: Understanding the Biological Basis of Unethical Conduct.. Journal of Experimental Psychology: General, 2015

太るのはニオイを想像する能力が高いせい?

phm06_0013-s太っている人の方が、より正確に食べ物のニオイを想像する能力が高く、これによって食欲が増してしまう可能性があると米国エール大学の研究者らが、2015年7月に開催される第23回米国摂食行動研究学会で報告されました。

この研究では、被験者にポップコーン、クッキー、焼き立てのパンなどの食品の写真と、バラの写真などの食品ではないものの写真を見せて、その匂いを想像させ、その能力とBMIの相関性を調べました。

その結果、BMIがより高い人の方が、食品・非食品に関係なく、画像からニオイを想像する能力が高いことが明らかになりました。

研究者らは、視覚から受ける臭覚の感覚が鋭敏なために、写真を見ただけでも、ニオイを感じることで、より強い食欲を感じて、結果的に過食を起こし、体重増加や肥満になってしまうリスクが高いのではないかと分析しています。

Greater Perceived Ability to Form Vivid Mental Images in Individuals with High Compared to Low BMI. BP Patel, K Aschenbrenner, D Shamah, DM Small.
23rd Annual Meeting of the Society for the Study of Ingestive Behavior

高脂肪食、高糖質食で思考の柔軟性も低下する

phm19_0005-s高脂肪食と高糖質食の両方が、思考の柔軟性を低下させることが、米国オレゴン州立大学の研究で明らかになり、2015年6月の『Journal of Neuroscience』で紹介されました。

これは、若いマウスに高脂肪食、高糖質食、通常食を与え続けて、4週間後に認知機能やさまざまな行動テストを行い、比較した結果によるものです。

その結果、4週間、高脂肪食と高糖質食を食べていたマウスは、通常食のマウスに比べて、明確な認知機能の低下がみられ、さらに思考の柔軟性が低下していることも明らかになりました。

思 考の柔軟性とは、例えば私たちがいつも通勤に使っている道が通行止めになった場合、目的地まで行くための違うルートを考えなければなりませんが、高脂肪、 高糖質の食事を食べ続けていると、なかなか違うルートが思い浮かばなかったり、翌日、いつもの道が通行止めになっていることを忘れてしまったりするという ような、脳機能の低下がみられるということです。

研究者らは、この結果について、マウスの腸内細菌叢も研究しており、高脂肪と高糖質な食事を摂ることによって、腸内細菌や微生物の種類が変わってしまい、それが脳に何らかの影響を与えて、認知機能や思考の柔軟性を低下させている可能性があると分析しています。

K.R. Magnusson, L. Hauck, B.M. Jeffrey, V. Elias, A. Humphrey, R. Nath, A. Perrone, L.E. Bermudez. Relationships between diet-related changes in the gut microbiome and cognitive flexibility. Neuroscience, 2015

製品の購買意欲はCM前にみた映像の好感度に影響される

phm20_0239-sCMで紹介された製品を買いたくなるかどうかは、そのCMが流れる前に見た映像の印象の良し悪しに影響することが、フロリダ国際大学の研究で明らかになり、2015年6月のJournal of Marketing Research で紹介されました。

この研究では、ある製品CMを見る前に、好感度の高い米国俳優ウィル・スミスの全く関係ない映像を見せた場合と、ジャスティン・ビーバーという全米一の嫌われ者ミュージシャンの映像を見せたときの人々の購買意欲の違いを比較しました。

その結果、CMを見る前にウィル・スミスの映像を見たときの方が、よりそのCM製品に対する購買意欲が高まることが明らかになりました。

たしかに、おもしろい番組を見ている間に流れるCMには好印象を持ちますが、おもしろくない番組であれば、CM製品に対して「こんな番組をサポートしているのか!」と呆れるか、CMを見る前にテレビを消してしまいます。

CMそのもののクオリティも大切ですが、そのCMの前後に見る映像も、大きな影響を与えることを、研究者らは指摘しています。

More Than a Feeling: Emotional Contagion Effects in Persuasive Communication. Journal of Marketing Research, 2015

親知らずから角膜再生

phm06_0362-s角膜は眼球の前方の、いわゆる「黒目」にあるレンズのような働きをしている部分で、血管がなく、無色透明な組織で、コラーゲン繊維でできています。 角膜は、光を眼球内に透過させて、光を屈折させて網膜に像が結ばれるのを助けている、ものが見えるためにとても重要な役割を担っています。

角膜はわずか0.5mmの薄い膜で、細菌やウイルス感染、外傷、遺伝的な疾患などによって、角膜が濁ったり、変形することで視力が失われ、角膜移植が必要になることがあります。

角 膜移植は、ドナーによって提供される角膜を患者さんに移植していますが、ドナー不足と拒絶反応などのリスクなどが問題になっています。これを解消するため に、アメリカペンシルベニア州のピッツバーグ大学医学部で、第三大臼歯(親知らず)の歯髄幹細胞を、角膜に注入することで、角膜の再生が可能になるかもし れないことを、マウスを用いた実験で明らかにしました。親知らずの歯髄細胞は、角膜の再生に必要なⅠ型コラーゲンと角膜実質細胞を作り出す能力を持ち、こ れを利用することで、角膜の再生が可能になるのではないかと期待されています。

Syed-Picard FN, Du Y, Lathrop KL, Mann MM, Funderburgh ML, Funderburgh JL.  “Dental pulp stem cells: a new cellular resource for corneal stromal regeneration.”  Stem Cells Transl Med. 2015 Mar;4(3):276-85.

気力と楽観が長寿の秘訣

phm12_0591-sスウェーデンのウメオ大学の研究によると、前向きな意欲、気力、勤労意欲や楽観的な姿勢が、寿命を延ばす要因になっていることが明らかになり、2015年3月の「Age Ageing」オンライン版で発表されました。

この研究は、平均年齢89歳のスウェーデンとフィンランドに住む男女646人について、2000年~2002年と、2005年~2007年に、孤独や老化への不満、生活満足度など、17の質問を面接調査または電話調査を行いました。2回の調査を行った結果、最初の調査で「高い意欲を持つ」と判定された高齢者の5年後の生存率は56%、「普通」と判定された高齢者は39%、「低い」と判定された高齢者は32%という結果でした。

この結果について研究者は、高齢者の気力や意欲を高めることによって、健康状態の改善、さらには寿命を延ばすことが可能になるのではないかと分析しています。

Niklasson J, Hörnsten C, Conradsson M, Nyqvist F, Olofsson B, Lövheim H, Gustafson Y. High morale is associated with increased survival in the very old. Age Ageing. 2015 Mar 15