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老化に対するネガティブな考え方が認知症を招く

米国エール大学の研究で、老化に対するネガティブな考え方を持つ人は、アルツハイマー型認知症になるリスクが高いことが明らかになり、2015年12月7日号の『Psychology and Aging』オンライン版で発表されました。

phm01_0007-sこの研究は、1958年にスタートした「ボルチモア老化縦断研究(The Baltimore longitudinal study of aging :BLSA)」のデータを解析したもので、老化に対して後ろ向き、ネガティブな信念を持つ高齢者は、そうでない高齢者に比べて、アルツハイマ型認知症の指標としても用いられ、記憶をつかさどる脳の海馬の体積が小さく、萎縮していることが明らかになりました。

この結果について研究者らは、老化に対する否定的な考え方を払拭して、老化に肯定的な考え方を持つようにするだけで、米国で500万人にのぼる認知症患者の数を減らすことができる可能性があると述べています。

“Negative beliefs about aging predict Alzheimer’s disease in study.” Psychology and Aging Online, 7 December 2015.

「目」があるとポイ捨てが激減

sct029-sイギリスのニューキャッスル大学の研究によると、人の目をプリントしたパンフレットや掲示物があると、人はゴミのポイ捨てをはじめとする反社会的な行動をしなくなることが明らかになり、2015年12月の科学雑誌『Peer J』で発表されました。

この研究に先だって同大学で2013年に行われた実験では、「自転車泥棒に注意してください。自転車のカギをかけてください」というメッセージを、男性の目がくっきりと印刷されたパンフレットとして、人々に見せたところ、62%も自転車の盗難が減少したそうです。

そ こで次の研究では、何のメッセージも書かずに、ただ人間の目がくっきりと印刷されたパンフレットを被験者に見せたところ、その後にポイ捨てを行った人は 4.7%に留まったのに対し、人間の目が不明瞭なパンフレットを見せた場合は、その後にポイ捨てを行った確率が15.6%にのぼりました。つまり、人間の 目がはっきりと印刷されたパンフレットを見せることで、ポイ捨てを3分の2も減らすこと ができることがわかったのです。

研究者らは、この結果について、私たちは、ひと目を気にすることで反社会的な行動をとらないように努力 し、さらに好感をもたれるような行動をとろうとしますが、ひとたびひと目が気にならなくなると、その抑制が取れて、反社会的な行動をとる可能性が高くなる 傾向があると指摘しています。そしてこのような人間の反社会的な行動を抑制するためには、「人に見られている」「他人の目を意識させる」ことが重要で、実 際のリアルな人間の目ではなく、写真やイラストだけであっても、十分に有効な反社会的な行動を抑制するツールになることが明らかになったと述べ、たとえば ファーストフード店のパッケージに人間の目を印刷することで、食べ終わったパッケージをポイ捨てせずに、きちんとゴミ箱に捨てるようになる人が多くなるの ではないかと指摘しています。

Melissa Bateson, Rebecca Robinson, Tim Abayomi-Cole, Josh Greenlees, Abby O’Connor, Daniel Nettle. Watching eyes on potential litter can reduce littering: evidence from two field experiments. PeerJ, 2015

アルツハイマー型認知症の発症初期から神経細胞のシナプスの破壊を引き起こす原因を解明

csne008-sアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が死滅することによって認知機能が低下する病気です。神経細胞の変質・破壊を引き起こしている原因として、「βアミロイド」というタンパク質の毒性作用があげられています。
オー ストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究によると、アルツハイマー型認知症のごく初期の段階で、神経細胞接着分子の「NCAM2」と呼 ばれるタンパク質が、「βアミロイド」というタンパク質の毒性によって分解・変質することで、脳の短期記憶を司る「海馬」の機能が低下して、アルツハイ マー型認知症が進行していくことが明らかになり、2015年11月の『Nature Communications』で発表されました。

NCAM2という神経細胞接着分子は、脳内の神経細胞から伸びている「シナプス」という情報伝達に必要な経路を接続して、神経細胞同士の情報伝達をスムーズに行い、脳内の情報ネットワークを維持するのに必要なタンパク質として知られています。

UNSW の研究チームは、海馬のNCAM2の数が、健常者に比べて、アルツハイマー型認知症の人は発症初期の段階から少ないことを発見。さらに、NCAM2が、ア ルツハイマー型認知症の人の脳に蓄積する異常なタンパク質「βアミロイド」によって分解されることがわかりました。

研究者らは、今回の研 究によって、アルツハイマー型認知症における神経細胞の損失が、βアミロイドの毒性が引き起こすNCAM2の破壊によって起こることが明らかになり、アル ツハイマー型認知症の新たな治療法として、βアミロイドタンパク質によって神経細胞接着分子NCAM2が破壊されないように守る方法を研究していくと述べ ています。

“Aβ-dependent reduction of NCAM2-mediated synaptic adhesion contributes to synapse loss in Alzheimer’s disease.” Nature Communications, Nov 27,2015

細胞を守り病気を寄せ付けない2つの食べ物

gum15_ph10012-sイギリスのウォリック大学の研究によると、タマネギとブロッコリーに、細胞の酸化を防ぎ、病気になりにくい健康な体を維持して、寿命を延ばす働きがあることがわかり、2014年9月の「Antioxidants & Redox Signaling (ARS)」で報告されました。

この研究では、タマネギの皮に含まれる「ケルセチン」とブロッコリーに含まれる「スルフォラファン」という成分が「フィトケミカル(植物が自己防衛のために持つ働き)」や抗酸化物質として注目されていることから、その働きについて検証しました。

特に今回の研究では、Nrf2(NF-E2-related factor 2)という、正常な細胞が酸化ダメージを受けたときに、そのダメージを修復するように働き出すタンパク質に対する影響力を調べました。

その結果、タマネギの「ケルセチン」とブロッコリーの「スルフォラファン」が、ともにNrf2の動きを高速化して、より迅速に細胞が受けた酸化ダメージを修復する可能性があることが明らかになりました。

Xue M, Momiji H, Rabbani N, Barker G, Bretschneider T, Shmygol A, Rand D, Thornalley PJ.  “Frequency modulated translocational oscillations of Nrf2 mediate the ARE cytoprotective transcriptional response.” Antioxid Redox Signal. 2014 Sep 2.

善玉菌の生存競争が腸の健康には重要

P1100724small英国オックスフォード大学の研究で、腸内細菌のうち、善玉菌同士の生存競争が活発な方が腸の健康にプラスになることが明らかになり、2015年11月の「Science」に掲載されました。一般的には腸内は悪玉菌を減らして善玉菌を増やすことで腸を健康に保つと考えられています。今回の研究ではさらに、善玉菌の種類、バリエーションを豊富にすることで、善玉菌同士の生存競争を活発にすることで、善玉菌が持つ力を引き出し、より良い腸内環境が構築されることが明らかになりました。つまりは、いつも同じヨーグルト、牛乳、キムチなどの発酵食品を摂るのではなく、産地が異なり、食品に含まれる善玉菌の種類が豊富な食品をいろいろ食べることが、腸の健康維持に役立つということです。

K. Z. Coyte, J. Schluter, K. R. Foster. The ecology of the microbiome: Networks, competition, and stability. Science, 2015;

親の期待が高すぎるのは子どもの成績に悪影響

phm20_0188-s親の期待が大きすぎると子どもはそれを負担に思うと言いますが、学業成績に関する過度な親の期待が、実際の子どもの成績に悪影響を与えることが、英国リー ディング大学の研究で明らかになり、2015年11月の『Journal of Personality and Social Psychology』で報告されました。この研究では2002年~2007年に実施された3530人のドイツの中学生を対象に、学業に関する両親の期待 の大きさと、子どもの実際の学業成績について調査しました。さらにその後、1万2千人の米国の学生と親を対象とした同様の調査を行ったところ、ドイツでも 米国でも、親の過度で現実離れした学業成績への期待は、子どもの実際の成績に悪い影響を及ぼしており、親の期待が現実的な期待を越えない程度の適度なもの である場合には、良い影響を及ぼすことが明らかになりました。

Kou Murayama, Masayuki Suzuki, Japan; Reinhard Pekrun, Stephanie Lichtenfeld, and Herbert Marsh. Don’t Aim Too High for Your Kids: Parental Overaspiration Undermines Students’ Learning in Mathematics. Journal of Personality and Social Psychology, Nov. 16, 2015

緑の多いオフィスは脳の機能を高める

gum11_ph05066-sハーバード大学の研究で、二酸化炭素のレベルが低く、風通しが良く、緑の多い環境のオフィスで働くことで、脳の働きが著しく向上することが明らかになり、2015年10月の『Environment Health Perspectives』に発表されました。

こ の研究では24人の被験者に対し、6日間ずつ、二酸化炭素濃度、風通し、そして塗料・接着剤・洗浄剤・ガソリン・シンナーなどの揮発性有機化合物 (VOC:Volatile Organic Compounds)の濃度、植栽の量などの異なるオフィス環境で過ごしてもらい、意思決定能力・危機管理能力・情報活用能力などの認知機能テストを行い ました。

その結果、二酸化炭素濃度が低めで、VOCの濃度も低く、緑の植栽がたくさん配置されたオフィスで働いたときの方が、認知機能が約2倍も高まるこ とが明らかになりました。

この結果について研究者らは、室内環境の質を改善して、緑を取り入れた良い環境で働くことで、労働者の意思決定能力を著しく向上 させることが明らかになったと述べています。

John D. Spengler, Jose Vallarino, Suresh Santanam, Usha Satish, Piers MacNaughton, Joseph G. Allen. Associations of Cognitive Function Scores with Carbon Dioxide, Ventilation, and Volatile Organic Compound Exposures in Office Workers: A Controlled Exposure Study of Green and Conventional Office Environments. Environmental Health Perspectives, 2015

頭を動かすと感情が伝わりやすい

phm23_0579-s歌手が感情移入して歌っているときに、頭を動かすことが良くありますね。清水アキラさんやコロッケさんをはじめとする上手なモノマネ芸人さんは、頭の動きの特徴を上手にまねして「ご本人らしさ」を出しています。

実は頭を動かして感情を伝える方法は、心理学的にも効果があることが明らかになりました。

カナダ・モントリオールのマクギル大学の研究によると、人の頭の動きが、感情を伝える上で重要な役割を持つことが明らかになり、2015年10月の心理学系科学雑誌『Emotion』に発表されました。

この研究は、ある歌手が歌っているビデオクリップを、音声なし、さらに歌手の顔の表情も隠して被験者に見せて、頭の動きだけで指定されたそれぞれの場面に対する印象を、「とても幸せ」、「幸せ」、「普通」、「悲しい」、「とても悲しい」の5つに評価・分類してもらいました。

その結果、音や表情がわからなくても、歌手の頭の動きだけで、かなり正確に歌手が伝えようとしている感情を読み取ることができることが明らかになりました。

この結果について研究者らは、今回は英語圏の人だけを対象に実験を行ったため、今後は異なる言語圏同士でも同じ結果になるかどうかを検証するとともに、音が聞こえにくい場所や、耳の聞こえが悪い人に対するコミュニケーションの有効なツールとして「頭の動き」があることを広め、さらにはロボットなどにも応用してみたいと述べています。

カラオケを歌うときには、ぜひ頭を動かして熱唱してください!

Head Movements Encode Emotions During Speech and Song.. Emotion, 2015; DOI: 10.1037/emo0000106

不健康な食事で脳が萎縮する

phm21_0672-sオーストラリアのDeakin大学とオーストラリア国立大学の研究によると、不健康な食事を続けると、記憶を司る脳の「海馬」が小さくなる可能性があることがわかり、2015年9月のBMC Medicineで発表されました。

こ れはオーストラリア在住の60~64歳、255人を被験者として行った調査結果によるもので、砂糖入り飲料、塩気の多いスナック菓子、加工肉などの不健康 な食品を、日常的に食べてきた人は、健康的な食事を続けてきた人に比べて、脳の中で、必要な情報を記憶として保存するために働いている「海馬」の容積が小さいことが明らかになりました。

この結果について研究者らは、海馬は可塑性が高く、酸化やストレスなどに弱いために、不健康な食事の影響を受けやすいためではないかと分析しています。

Jacka FN, Cherbuin N, Anstey KJ, Sachdev P, Butterworth P. “Western diet is associated with a smaller hippocampus: a longitudinal investigation.” BMC Med. 2015 Sep 8;13(1):215.

子どもにやさしい社会こそが経済成長のカギ

sr458_img07「子どもにやさしい社会こそが経済成長のカギ」であることをたくさんの人々が気づき、「忙しい人間が一番偉い」とか「子育てはビジネスの邪魔になるばかり」などという社会の空気を変えていくことが大切だと考えます。子どもと子育てにやさしい街、やさしい社会には、たくさんの可能性を秘めた命のエネルギーに満ちあふれ、明るい夢や未来がいっ ぱいです。だからこそ、人々が集まり、街が繁栄しているのです。日本でも子育てする親たちの愛情あふれる表情や、子どもたちの笑顔を見て、忙しいビジネス マンやストレスを抱える人々が笑顔を取り戻し、「子どもは社会の宝」と考えてくれるようになることを願ってやみません。コラム全文