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ストレスは回数より受け止め方で心臓に悪影響を及ぼす

ストレスや怒り・悲しみなど、負の感情を抱くことが、心臓病のリスクを高めることはよく知られていますが、具体的なメカニズムや、ストレスや怒り・悲しみなどのレベルや頻度(回数)と心臓病リスクの関係性に関して詳しく解明されてはいません。

米国ペンシルベニア大学の研究によると、ストレスや不安・怒りなどを感じる頻度(回数)よりも、それをより深刻に受け止めて、強い不安を感じたり、怒りや不満を抱くことが、心臓病を引き起こすリスクを高めていることが明らかになり、2016年2月の『Psychosomatic Medicine』で発表されました。

この研究は、35歳~85歳までの909人の被験者に心電計を装着し、電話で8日間連続で質問に答えてもらいながら、そのときの心電図を記録すると同時に、電話のやり取りや質問内容に対する被験者のストレス度と、電話以外のときに感じた1日のストレスの回数や負の感情の回数についてのアンケートに回答してもらいました。

その結果、ストレスや負の感情を受ける頻度(回数)よりも、そのストレスをどのように受け止めるかが、心臓病リスクと関係していることが明らかにまりました。

つまり、ストレスを受けた頻度(回数)よりも、ストレスに対して怒りや不満、不安を感じたり、ストレスをネガティブに受け止てしまうことの方が、心臓病のリスクを高めるということです。

Linking Daily Stress Processes and Laboratory-Based Heart Rate Variability in a National Sample of Midlife and Older Adults. Psychosomatic Medicine, 2016

女性発明家は男性よりも14%も賃金が低い

イタリアのボッコーニ大学などの研究によると、女性の発明家は男性よりも14%も賃金が少ないことが明らかになり、2016年1月の『Management Science』に掲載されました。

こ れは、同大学が世界23か国、9,692人の発明家について分析した結果によるもので、まず調査対象全体に占める女性発明家の割合は、たったの4.2%に 留まり、さらにそこから、出産や家事と仕事の両立が困難であると考えて、研究活動をやめてしまう女性が多いために、女性発明家は、男性よりも低く評価され ていることが明らかになりました。

この結果を分析して研究者らは、女性で自然科学を志す人が少ないのは、女性が研究者や発明家の道を選んでも、高収入や高いポジションを得ることが難しいことを知っているために、最初から敬遠してしまうからではないかと分析しています。

Bocconi University. “Good but few and underpaid: Female inventors gain 14% less than men.”, 18 February 2016

食べもので遺伝子が変わる?!

phm15_0717-s私たちの遺伝子は、私たちが食べるものに影響を受けている可能性があることを、酵母を用いた研究で明らかにしました。

これは、ケンブリッジ大学の研究で、2016年2月号の『Nature Microbiology』に掲載されました。

研究は、「サッカロミセス酵母」を用いて行われ、私たちが食べる食品に由来する糖類、アミノ酸、脂肪酸及びビタミンが、酵母細胞内での代謝システムと遺伝子の反応に影響を与えていることが明らかになりました。

研究者らは、細胞代謝は、我々が以前から考えていたことよりも、はるかにダイナミックな役割を細胞内で果たしており、ほぼすべての細胞の遺伝子は、栄養素の変化による影響を受けているということです。食べ物が持つ栄養素が遺伝子の動きに影響を与えることが判明したことで、たとえばがん細胞は細胞内の代謝ネットワークを変更するための遺伝子変異を発現させますが、これに関しても食品からの栄養摂取が、がん細胞の発現に大きく関係していることが示唆されるということです。

Mohammad Tauqeer Alam, Aleksej Zelezniak, Michael Mülleder, Pavel Shliaha, Roland Schwarz, Floriana Capuano, Jakob Vowinckel, Elahe Radmaneshfar, Antje Krüger, Enrica Calvani, Steve Michel, Stefan Börno, Stefan Christen, Kiran Raosaheb Patil, Bernd Timmermann, Kathryn S. Lilley, Markus Ralser. The metabolic background is a global player in Saccharomyces gene expression epistasis. Nature Microbiology, 2016

不安が強い人は左側を歩く

phm01_0011-sイギリスのケント大学の研究によると、不安は人が歩く方向に影響を与えることが明らかになり、2016年1月の「Cognition」で発表されました。

この研究は、心理テストの結果と、目隠しをして歩いてもらったときのビデオ撮影動画を解析したもので、不安が強い人は、左側を歩く傾向が強いことが明らかになりました。

この結果について研究者らは、右脳は不安や注意力をコントロールして、危険を回避するために働く領域なので、

不安の強い人の方が右脳をよく働かせているために、右脳でコントロールされている体の左側が、歩くときにもよく動くのではないかと推察しています。

Mario Weick, John A. Allen, Milica Vasiljevic, Bo Yao. Walking blindfolded unveils unique contributions of behavioural approach and inhibition to lateral spatial bias. Cognition, 2016

 

 

 

睡眠の質を下げる食事とは?

phm21_0333-s米国コロンビア大学の研究によると、糖質と飽和脂肪酸が多く、食物繊維が少ない食事、たとえばハンバーガーセット、カツ丼、天丼、ラーメン…など、野菜が少 なくご飯や麺が多い食事を食べると、睡眠の質が悪くなることが明らかになり、2016年1月の『Journal of Clinical Sleep Medicine』で発表されました。

これは、平均年齢35歳の男性13人、女性13人に決められた食事を摂ってもらい、食事を食べた夜の睡眠の質について分析した結果によるもの。

その結果、食物繊維の摂取量が少なく、不飽和脂肪酸と糖質の摂取量が多い食事の後の睡眠は、脳波にゆるやかな波があらわれる深い眠りの状態を差す「徐波睡眠の時間が短く、ぐっすり眠れていないことが明らかになりました。

睡 眠の質が、高血圧・糖尿病・心血管疾患などの慢性病に影響することが指摘されていることから考えると、睡眠の質を下げる可能性がある糖質や飽和脂肪酸が多 い食事を見直すことで、生活習慣病の予防や治療に良い結果をもたらす可能性があることを指摘しています。今後は、なぜ食物繊維が少なく、糖質と飽和脂肪酸 が多い食事を食べると、眠りが浅くなるかについて、研究を進めて行くそうです。

Fiber and saturated fat are associated with sleep arousals and slow wave sleep. J Clin Sleep Med, 2016

重度の自閉症、レット症候群などの新規治療薬の手掛かりを発見

admin-ajax.phpCredit: Gong Chen lab, Penn State University

重度の自閉症スペクトラムや、「レット症候群」という女児に発症する神経系を主体とした特異な発達障害(推定患者数1030人。睡眠、筋緊張の異常、姿勢運動の異常、ジストニア、側彎、情動異常、知的障害、てんかんなどの症状が乳幼児期から出現するケースが多い)の新規治療薬の開発に有力な標的物質が米国ペンシルベニア大学で発見されたことが明らかになり、2016年1月4日の「Proceedings of the National Academy of Sciences」オンライン初期編集版で発表されました。

この研究はレット症候群の患者さんの皮膚の細胞を使って行われたもので、レット症候群の患者さんの約95%に、X染色体上の「MECP2遺伝子」に変異を持つことから、この遺伝子変異が神経細胞に与える影響を調べました。

その結果、「神経細胞特異的カリウムークロール共役担体(KCC2)

」という塩素イオンの細胞外排出を行う物質が、正常な発達の場合は成長とともに増加して、神経細胞内の塩素イオン濃度を低下させることで、「GABA」や「グリシン」などの抑制系神経伝達物質が働くようになりますが、レット症候群や重度の自閉症スペクトラムの場合、KCC2が不足することで、抑制系の神経伝達物質がうまく働くことができなくなって、さまざまな発達障害の症状が発現することが明らかになりました。そこでレット症候群の患者さんの細胞にKCC2を追加したところ、抑制系神経伝達物質のGABAが正常に機能することがわかりました。さらに研究者らは、ヒトや動物の成長や発達を促進するホルモン「インスリン様成長因子1(Insulin-like growth factors 1:IGF1)」が、KCC2のレベルを上昇させて、GABAの働きを正常にすることが明らかになり、レット症候群や重度の自閉症スペクトラムに対する新規治療薬開発の手掛かりとなる研究成果となりました。

Penn State Univ. “Discovery of a new drug target could lead to novel treatment for severe autism.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 4 Jan. 2016

空腹でもないのに食べるのは体に毒!

gum07_ph01111-s「お昼だから、お腹が空いてないけれど、とりあえず食べておこう」「お腹がいっぱいだけど、おやつのお菓子をもらったから食べなくては・・・」という「お腹が空いていないのに食べる」という行動は、体に毒だということが明らかになりました。

米国コーネル大学の研究によると、空腹でないときに食べるのは、体に悪く、健康を害してしまうリスクが高いことが明らかになり、2015年12月の「Journal of the Association for Consumer Research」で発表されました。

この研究では、45人の健康な大学生を対象に、お腹が空いているときと、空いていないときに、それぞれ炭水化物が豊富な食事を食べてもらい、それぞれの食後の血糖値を測定しました。

その結果、空腹でもないときに食べた場合、空腹時に食べたときよりに比べて、顕著に血糖値が高くなってしまうことが明らかになりました。研究者らは、血糖値の急激な上昇は、体にダメージを与え、さまざまな生活習慣病を引き起こすリスクがあるため、研究者らは、食事は空腹を感じてから食べるように心がけるように注意を喚起しています。

Cornell Food & Brand Lab. “Let hunger be your guide: Eating when we are not hungry is bad for our health.” Journal of the Association for Consumer Research, December, 2015

見知らぬ人に親切にしてもらった経験が共感的な脳の働きを高める

phm23_0002-s スイスのチューリッヒ大学の研究によると、見知らぬ人から親切にしてもらった経験がほんの少しでもある人は、その人自身も見知らぬ人へのやさしさや共感が芽生えて、親切な行動をとるように脳の神経細胞が働くようになることが明らかになり、2015年12月の『Proceedings of the National Academy of the United States of America』で発表されました。

この研究では、被験者に軽い手の痛みの刺激を与えてから、自分の知っている人と全く知らない人が、それぞれ自分が受けたものと同じ痛みの刺激を受けている所を目撃したときの脳の働きを観察しました。被験者の中で「過去に知らない人に親切にしてもらった経験」がある人は、そういった経験がない人に比べて、全く知らない人が痛みの刺激を受けているときに、同情的・共感的な神経細胞の働きが高まっていることが明らかになりました。

人は、自分が親切にしてもらった経験が少しでもあれば、今度は自分が困っている人を助けて自分が受けた恩を返そうという気持ちが高まり、それが実際に脳の神経細胞の動きで確認できたということです。

異国間での諍いや紛争をなくすためにも、見知らぬ人への小さな親切が、大いに役立っている可能性があるということです。

もし逆に、見知らぬ人から不親切にされた場合は、大きな心の溝になり、「見知らぬ人を見たら泥棒と思え」という、強い警戒心と心の壁を作ってしまうのかもしれません。

Hein, G., Engelmann, J.B., Vollberg, M., & Tobler, P.N. How learning shapes the empathic brain. Proceedings of the National Academy of the United States of America, December 2015

運動は腸内環境を整えることで脳機能と代謝機能を健康に保つ

phm20_0448-sこんにちは!医療ジャーナリストの宇山恵子です。今年もよろしくお願いします。

2016年1月1日、私が注目した海外発の健康医療ジャーナル記事の翻訳です。

米国コロラド大学の研究で、運動が腸内細菌叢を変化させて脳の機能を健康に保ち、体内の代謝活性を促進することが明らかになり、2015年12月の『Immunology and Cell Biology』で発表されました。

これは若いラットを用いた研究によるもので、よく運動させたラットの腸内細菌叢は、運動しないラットに比べて、腸内細菌の種類が多く、その中でも有益な腸内細菌の数と種類が多いことが明らかになりました。

研究者らはさらに運動がなぜ体に良いかの理由として、運動することで健全な腸内細菌叢の維持し、体内の代謝機能や脳機能を向上させて、うつ病予防やメタボリックシンドローム予防にも貢献している可能性があることを指摘しています。

Agnieszka Mika, Monika Fleshner. Early life exercise may promote lasting brain and metabolic health through gut bacterial metabolites. Immunology and Cell Biology, 2015

 

鏡を見ながら食べると不健康な食生活を改善できる

phm12_0270-s米国コーネル大学の研究で、不健康な食品を鏡を見ながら食べると、「おいしくない」と感じることが明らかになり、同大学のプレスリリースが2015年12月に発表されました。

この研究は、185人の健康な大学生を対象に行われたもので、鏡のある空間とない空間で、「低カロリーのフルーツサラダ(健康的な食品の代表)」と、「高カロリーのチョコレートケーキ(不健康な食品の代表)」を食べてもらいました。

その結果、鏡を見ても見なくても、フルーツサラダの味には影響がなかったものの、チョコレートケーキを食べたときには、鏡を見ながら食べたときに、より「おいしくない」と感じることがわかりました。

この結果について研究者らは、不健康な食生活を断ち切るために、食卓やダイニングルームに鏡を置いて、不健康な食品を食べている自分の姿を見ることで、食生活を改善する効果が期待できると述べています。

Cornell Food & Brand Lab. “Healthy reflections: Mirrors can make unhealthy foods less tasty.” ScienceDaily. ScienceDaily, 17 December 2015.